太陽とよく似た性質の星でもスーパーフレアが1世紀に1回起こる
研究成果の概要
太陽表面での爆発現象であるフレアや、それに伴って太陽から惑星間空間へプラズマが高速で放出されるコロナ質量放出と呼ばれる現象は、地球にも様々な影響を及ぼします。特に規模の大きな太陽フレアでは我々の社会インフラにも重大なダメージを与える場合があるため、太陽ではどこまで巨大なフレアが起こり得るのか?という研究が様々な方法で行われています。
マックスプランク太陽系研究所や国立天文台等の研究者からなる国際研究チームは、NASAが打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡によって2009年から2013年に取得されたデータを、欧州宇宙機関(ESA)が運用しているガイア宇宙望遠鏡による恒星の精密な位置カタログと組み合わせた新しい手法を用いて解析しました。その結果、ケプラーによって観測された 56,450 個の太陽とよく似た性質を持つ恒星(※1)のうち、2,527 個の星で 2,889 個のスーパーフレアを検出しました。得られたスーパーフレアのデータから、我々の太陽において過去165年の間に観測されたことのある最大級の太陽フレアよりもさらに20倍以上大きなスーパーフレアの発生頻度を求めると、1つの星で1000年あたり8.6回であることが分かりました。また、本研究で解析した天体のうち、星の温度や自転周期がより太陽に近い5959個の恒星(※2)に限っても、238個の星で208個のスーパーフレアが検出されました。この結果から求められたスーパーフレアの発生頻度は、1つの星で1000年あたり7.7回となり、従来の研究で求められていた発生頻度(数千年に1回)よりも1桁程度高いことが分かりました。
我々の太陽でもスーパーフレアが1世紀に1回起こるのでしょうか?木の年輪中に含まれる炭素14などの放射性同位元素を使った研究からは、過去1万2千年の間に太陽で起こったスーパーフレアに起因すると考えられる現象の頻度はおよそ1500年に1回と推定されています。また、太陽フレアの現代的な観測が始まって以降も、太陽でスーパーフレアが起こった確実な記録はなく、本研究の太陽類似星の観測から得られた結果とは大きな開きがあるように見えます。
太陽を始めとするスーパーフレアを起こさないおとなしい星と、本研究で見つかったような太陽とよく似た性質を持ちながらスーパーフレアを起こす星の間には、まだ分かっていない本質的な違いがある可能性もあるため、太陽類似星の観測から得られた結果がそのまま現在の太陽にも適用できるのかはまだ分かりません。
今後3.8mせいめい望遠鏡などを用いて本研究で見つかったスーパーフレアを起こす星の詳細な観測を行い、スーパーフレアを起こす星とそうでない星の違いは何か、それらの星は現在の太陽とそっくりな星と言えるのかどうかを調べる研究を進めることが重要と言えるでしょう。
※1:表面温度が5000度から6500度の主系列星で、自転周期が20日以上または自転による明るさに変動が小さいために自転周期が求められなかった星
※2:表面温度が5500度から6000度の主系列星で、自転周期が20日から30日の間にあり、自転による星の明るさの変動の振幅が0.3%以下の星。太陽は表面温度5780度で自転周期25日。
この研究成果は、Vasilyev, V. et al. “Sun-like stars produce superflares roughly one per century” として、米国の科学学術誌『サイエンス』に2024年12月13日付で掲載されました。
- スーパーフレアの想像図 (クレジット:MPS/Alexey Chizhik)
論文情報
- タイトル
- Sun-like stars produce superflares roughly one per century
- 著者
- Valeriy Vasilyev, Timo Reinhold, Alexander I. Shapiro, Ilya Usoskin, Natalie A. Krivova, Hiroyuki Maehara, Yuta Notsu, Allan Sacha Brun, Sami K. Solanki, Laurent Gizon
- 掲載誌
- Science
- DOI
- 10.1126/science.adl5441
Acknowledgement
- この研究は以下の支援を受けて行われました。
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日本学術振興会科学研究補助金 20H05643, 21J00106, 21H01131, 24K00685, 24H00248, and 24K00680
Max Planck Society“Preparations for PLATO Science”
German Aerospace Center (50OP1902, 50OU2101)
European Research Council Synergy Grant (REVEAL 101118581, WHOLE SUN 810218)
Research Council of Finland (Projects 321882 and 354280)
NASA ADAP award program No. 80NSSC21K0632
International Space Science Institute (ISSI) team #510
Data collected by the Kepler mission was obtained from the Mikulski Archive for Space Telescopes (MAST) operated by the Space Telescope Science Institute (STScI). Funding for the Kepler mission is provided by the NASA Science Mission Directorate. STScI is operated by the Association of Universities for Research in Astronomy, Inc., under NASA contract NAS 5–26555.
Data from the European Space Agency (ESA) mission Gaia (https://www.cosmos.esa.int/gaia) were processed by the Gaia Data Processing and Analysis Consortium (DPAC, https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/dpac/ consortium). Funding for the DPAC has been provided by national institutions, in particular, the institutions participating in the Gaia Multilateral Agreement.
This research made use of Lightkurve, a Python package for Kepler and TESS data analysis (Lightkurve Collaboration, 2018).
外部リンク
Solar Superflares once per Century (マックス・プランク協会からのニュースリリース)