太陽型星のスーパーフレアから噴出する巨大フィラメントを初検出
―昔の、そして今の惑星環境や文明に与える脅威―

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若い太陽型星「りゅう座EK星」の想像図。スーパーフレアの発生に伴い巨大なフィラメント噴出が起こる様子。(クレジット:国立天文台)

研究成果の詳細解説

1.研究の背景

太陽フレアは太陽表面の突発的な爆発現象のことであり、それに伴う質量放出現象「フィラメント噴出」が発生することが知られています。太陽における大規模なフレアの場合、地球に向かう質量放出現象(フィラメント噴出や、より上層のコロナ質量放出)は地球環境に多大な影響を及ぼし、過去には実際に通信障害や大規模停電などの被害に繋がった事例が報告されています。国立天文台の行方宏介(なめかた こうすけ)特別研究員を中心とする研究チームによるこれまでの研究により、太陽型星(太陽によく似たパラメータを持つ恒星)用語1では、超巨大な「スーパーフレア」(最大級の太陽フレアの10倍以上規模)用語2の発生が発見されてきました。この発見は、今の太陽でもスーパーフレアが発生しうることを示唆しており、これまでの常識を覆すものでした。もし太陽でスーパーフレアが発生した場合、電力インフラやITシステムに大きく依存する現代社会には甚大な影響を与える可能性が指摘されており、太陽型星および太陽で発生するスーパーフレアが社会的にも学問的にも注目されています。

また、若い太陽型星はスーパーフレアをより高頻度で起こすことが知られています(ここで「若い」とは、太陽がその中心で安定に核融合反応を続けるようになった直後の状態と同様な段階を意味し、惑星系も誕生していると期待されます)用語1。同様に、我々の太陽も若い頃はスーパーフレアを発生させていたことが類推されます。このような若い太陽や太陽型星で発生していたスーパーフレアは、地球や太陽系外惑星での生命生存環境の生成・維持にも大きな影響を及ぼしていた可能性が指摘されており、近年注目されています。太陽型星でのスーパーフレア現象を調べることで、「我々はどこから来たのか、何者か、どこへ行くのか」と言う重大な問いへの手がかりを得られるのではないかと期待されています。

ところが、太陽型星のスーパーフレアの発生に伴う質量放出現象はこれまで検出されておらず、どのように惑星環境に影響を与えるのかは全く分かっていませんでした。これを検出するには、視線方向の運動を知ることができる「分光」観測用語3という手法での観測が必要です。しかし、検出感度の不足・観測時間の不足が理由で、これまで分光観測に成功した試しがなかったのです。そこで我々は、京都大学のせいめい望遠鏡の3.8メートルの大口径とそれを中心とした膨大な観測時間により、太陽型星のスーパーフレアの分光観測データを初めて入手する計画を着想しました。この計画を通して、フレア活動が高い太陽型星において、フィラメント噴出のような質量放出現象が実際に発生しうるか?という問いに決着をつけ、惑星環境への影響の有無を観測的に制限したいと考えています。

2.研究手法・成果

研究手法
  1. 今回研究チームは、若い太陽型星であるりゅう座EK星(EK Draconis)を継続して何度も分光する観測を、2020年2月から4月までの約32日間実施しました。京都大学の口径3.8メートルせいめい望遠鏡を中心に、兵庫県立大学西はりま天文台の口径2.0メートルなゆた望遠鏡でも、同期間に分光観測を実施しました(図1参照)。また、米国NASAのTESS衛星を用いた星の明るさ変化を測定する「測光」観測用語3も同時に行いました。これらの他の望遠鏡を連携して観測を行ったのは、同時検出によりフレアの分光データを初検出したことを裏付けることが狙いです。
  2. 分光観測によって得られたフレア中のHα水素線用語4が、「ドップラーシフト」という現象を起こしているかどうかを調べました。これにより、物質が視線方向に運動していたのかどうかが分かります。
  3. さらに、太陽で発生した(恒星での現象に比べると小規模な)フィラメント噴出のHα水素線のデータ(京都大学飛騨天文台で観測)と比較し、太陽型星で観測された現象が太陽で起きているものと同じかどうかを検討しました。
成果
  1. 2020年4月5日、「測光」観測による白色光の増光と同時に、分光観測によるHα水素線でも星の光が増大する現象が検出されました(図2右の赤線)。そのエネルギーは最大級の太陽フレアの10倍以上であったことから、太陽型星で初めてスーパーフレアの可視光線での分光観測に成功しました。
  2. スーパーフレアの発生に伴って、Hα水素線が「ドップラーシフト」を起こし、1万度程度の物質が視線方向に沿って近付く向きに運動しているようすが捉えられました(図2右の青線)。このようすは、実は太陽でのフィラメント噴出と非常によく似ていることが判明しました(図3)。こうしたことから、太陽型星でのスーパーフレアの発生が、超巨大なフィラメント噴出を伴っていることを世界で初めて発見したと分かりました。
  3. 噴出したフィラメントの質量は太陽で起こった史上最大級の質量放出現象の10倍以上であり、さらに秒速約500キロメートルもの高速で噴出していることが判明しました。
本研究成果の意義
  1. スーパーフレアに関しては、これまで可視光線では測光観測しか行われていませんでしたが、今回初めての分光観測に成功し、太陽型星のスーパーフレアに伴う「物質の運動」という新たな扉を開きました。これにより、太陽型星で発生するスーパーフレアが、質量放出という形で周囲の惑星間空間に影響しているという、これまで想像でしかなかった描像を明らかにし、我々の視野を飛躍的に広げたという意義があります。
  2. 本研究を一般化すると、若い太陽・若い太陽型星は、巨大な質量放出という形で、その周囲を周る若い地球や若い太陽系外惑星の大気の進化に深刻に影響する可能性がある、と言うことができます。故に本研究は、若い太陽型星での噴出現象が若い地球・惑星大気の進化(および生命誕生・維持)に影響する可能性を観測的に初めて示唆しただけでなく、その影響を議論する唯一の観測例を得た、という意義があります。
  3. 今回、太陽型星で発見されたこの現象は、太陽のスーパーフレア発生に伴って噴出しうる巨大フィラメントを予想するモデルとも捉えることができます。この意味で、太陽が地球・惑星環境に「最大でどれくらい影響を与えるのか?」を評価する唯一の観測を得たという意義があります。

3.波及効果、今後の予定

 近年、惑星における生命誕生・維持が天文学における大きなテーマになっています。先行研究では、質量放出現象が、惑星大気の進化(例えば、温室効果ガスや有機物の生成、惑星大気の剥ぎ取り)に関与するというモデルが提唱されていました。本発見での質量放出の確かな検出、およびその性質の解明により、若い太陽や太陽型星が、スーパーフレアや質量放出現象といった形で若い地球・火星、および若い系外惑星大気の維持・成長に影響する可能性が、より実際的に議論することができるようになると期待されます。
 また、太陽ではスーパーフレアの発生頻度は数百年に一度程度で非常に低いとされていますが、数百年に一度の災害も決して現代社会と無縁ではないことを、我々は既に東日本大震災から学びました。今回の観測成果を太陽で発生しうるスーパーフレアや大規模な質量放出の代わりと捉え、それが地球環境に及ぼす影響を見積もることができれば、「太陽でスーパーフレアが発生したら、地球環境はどうなるのか?」という人類文明にとっても重大な問いに答える手がかりになり、現代の人類文明においては減災面での貢献になります。
 さらに、フィラメント噴出現象の発生頻度は、太陽型星および太陽の質量や自転速度にも大きく影響する可能性があり、これも太陽と地球の過去の姿を知るには重要です。今後は、このフィラメント噴出の発生頻度を調べ、太陽型星の惑星の大気の進化にどれほど影響を与えるのか、明らかにしたいと考えています。今後も地道に観測を継続することで、人類の宇宙文明の継続、および生命誕生・維持にまつわる課題が一つ一つ解決されていくと期待されます。

用語解説

1. 太陽型星
表面温度が5000ないし6000ケルビン程度の恒星(太陽の表面温度は約5800ケルビン)。今回観測したりゅう座EK星は、表面温度が約5750ケルビンであり、太陽と比較的よく似た構造をしていると考えられている。りゅう座EK星の年齢は1億年程度と推定されており(太陽の年齢は46億年)、「若い太陽」の代表として知られる。この年齢においては、惑星は誕生した後の段階と考えられている。
2. スーパーフレア
最大級の太陽フレアの10倍(1026ジュール)以上のエネルギーを解放する大規模フレア。1026ジュールは水素爆弾約10億個に相当する。
3. 「分光」と「測光」
「分光」観測とは、光を虹色のように色(=波長)に分けて、それぞれの色の強度を測る手法のこと。「測光」とは、光を色に分けず、全て積分された量として測る手法。
4. Hα水素線
水素の異なるエネルギー間で遷移する際に放射される光。波長は656.28ナノメートルで、赤く見える。

研究者のコメント

せいめい望遠鏡としては初の『Nature』姉妹誌での掲載を大変嬉しく思います。思い返せば、2020年春先は新型コロナ感染拡大期であり観測にも制限がある困難な状況で、短期集中で32日間もの観測を実施し、このような唯一無二の現象を発見したときは感動もひとしおでした。今後も人々の興味関心に応えるべく研究をしていきたいと思います。

論文情報

タイトル
Probable detection of an eruptive filament from a superflare on a solar-type star
(日本語訳:太陽型星におけるスーパーフレアに伴うフィラメント噴出の検出)
著者
Kosuke Namekata, Hiroyuki Maehara, Satoshi Honda, Yuta Notsu, Soshi Okamoto, Jun Takahashi, Masaki Takayama, Tomohito Ohshima, Tomoki Saito, Noriyuki Katoh, Miyako Tozuka, Katsuhiro L. Murata, Futa Ogawa, Masafumi Niwano, Ryo Adachi, Motoki Oeda, Kazuki Shiraishi, Keisuke Isogai, Daikichi Seki, Takako T. Ishii, Kiyoshi Ichimoto, Daisaku Nogami & Kazunari Shibata
掲載誌
Nature Astronomy(2021年12月9日付で出版)
https://www.nature.com/articles/s41550-021-01532-8
リンク
Nature Research Highlight "Young star’s streamer of scorching-hot gas gives astronomers a fiery first"(2021年12月14日付)
https://www.nature.com/articles/d41586-021-03683-0

参考図表

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図1:今回の観測で利用された望遠鏡。(左)京都大学岡山天文台 せいめい望遠鏡(クレジット:京都大学)、(中)兵庫県立大学西はりま天文台 なゆた望遠鏡(クレジット:西はりま天文台)、(右)米国航空宇宙局(NASA)トランジット惑星探査衛星TESS(クレジット:NASA)。
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図2:2020年4月6日未明に観測された、太陽型星(太陽によく似た星)りゅう座EK星のスーパーフレア。(左)スーパーフレア時のイラスト。星表面でスーパーフレアが発生し、明るいところからHα線や白色光が放射される。一方、フィラメント噴出は、Hα線を吸収し、視線方向に対して運動している場合は、星からの光を吸収して暗く見える。(右)実際に得られたHα水素線の分光データ。スーパーフレア発生時は、Hα水素線中心で明るく光っている(赤線)。一方、約10分後には、視線方向に対して毎秒数百キロメートルの速度で運動する吸収成分が卓越してくることが検出された(青線)。これが、フィラメント噴出の証拠であると考えられる。
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図3:太陽型星(太陽によく似た星)りゅう座EK星のスーパーフレア(左)と、京都大学飛騨天文台SMART望遠鏡で観測された「太陽」でのフィラメント噴出(右)を、Hα線で比較した図。両者のHα線の変化が非常によく似ていることが判明し、太陽型星でも同じような現象が起きていることが確定的になった。ただし、横軸・縦軸のスケールは大きく異なり、星での現象はかなり大規模であったことが推測される。

Acknowledgement

この研究は以下の支援を受けて行われました。
日本学術振興会科学研究補助金(No. 18J20048, 21J00316, 17K05400, 20K04032, 20H05643, 21J00106, 20K14521 and 15H05814)
光・赤外線天文学大学間連携事業 「大学間連携による光学・赤外線天文学研究教育ネットワークの活用 - マルチメッセンジャー天文学の拠点創出 -」
This research uses data collected with the TESS mission, obtained from the MAST data archive at the Space Telescope Science Institute (STScI). Funding for the TESS mission is provided by the NASA Explorer Program. STScI is operated by the Association of Universities for Research in Astronomy, Inc., under NASA contract NAS 5–26555.

大学共同利用機関である自然科学研究機構 国立天文台は、京都大学の協力のもと、せいめい望遠鏡の観測時間の半分を全国の大学の共同利用に供しています。本研究成果の創出にも、この共同利用の観測時間が大きく貢献しています。国立天文台をはじめとする国内各地の大学による連携観測網「光・赤外線天文学大学間連携事業(OISTER)」もまた、今回の同時観測に大きな役割を果たしています。